個人の財産イコール家族の財産、ではない!?

  • vol.4

もうすぐ5人に1人の時代が。

あと4年後の2025年に700万人。
この数字を目にして、みなさんは何の数字だと思われますか?
実は、認知症を患う高齢者の数なのです。「65歳以上の方の約5人に1人」という言葉にすると、ぐっと印象が変わるかもしれません。
そうなんです、認知症は今や誰もが関わる可能性のある身近な病気なのです。
最近、本人確認や意思確認をされる場面が増えていることを実感されている方も多いと思います。銀行の窓口や何らかの契約を行う際に名義人本人の確認は必須となっています。
もし、その際に名義人本人の確認が取れなかったらどうなるでしょうか?
本人の意思確認が行えないと契約を行うことはできません。
銀行では「ご本人の後見人を立ててください」と指示されるケースが増えています。
実際、国が公表しているデータによれば、預貯金の解約や引き出しが後見人選任の最も多い動機となっています。
みなさんも耳にされたことがあるかもしれない、この後見人という仕組みについて
ここで少しご説明いたしましょう。
認知症や知的障がい、精神障がいなどの理由で判断能力が不十分であると、不動産や預貯金などの財産を管理することが難しくなります。
また、介護サービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合もあります。
このような判断能力が不十分な本人を保護し、支援するのが成年後見制度です。
ポイントは『既に』判断能力が不十分になっている、『今まさに』困っている、というところです。

選任するのは裁判所。

成年後見制度には、大きく分けて法定後見制度と任意後見制度の2つの仕組みがあります。今日は、このうちの法定後見制度を取り上げます。
法定後見制度は、①後見②保佐③補助の3つに分かれていて、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。
では、誰が後見人等になるでしょうか?
みなさんの家族の誰かが判断能力が不十分な状態になって後見人を必要とした場合、誰が後見人になりますか?
「それは家族でしょう。家族のことですから」
そう思われる方がほとんどだと思いますが、でも、実際は大きな「ズレ」があります。
法定後見制度において後見人等を選任するのは家庭裁判所、つまり国です。
その国は、全体の75%程度を我々司法書士のような専門職を選任し、親族等が選ばれるケースは25%程度にとどまっています。
「家族なのになぜ選ばれないんでしょうか?」
「全く知らない方が後見人になったので、別の方に変えてもらえませんか?」
「預貯金の解約だけ出来ればいいので、もう後見人の利用をやめたいのですが・・・」
そのような疑問や要望が出てきても無理はないのですが、実は
法定後見制度は一度申立てを行うと、本人が亡くなるまでずっと続く制度なのです。
スポットの利用はできません。我々司法書士のように専門職が後見人となる場合は、報酬もかかります。国が決定する報酬は月2~3万円で、しかも本人が亡くなるまで本人の財産から支払われることになっています。
「家族が後見人になれないこと」
「一度始めたら死ぬまで続くこと」
「思ってもいなかった費用がかかること」
こういったズレは、多くの人にとって想定「外」だからこそ起きるズレだと思います。

望んだ形で利用できるように。

ここまでお読みいただいたみなさんは、少し先の未来を見ることが出来たのではないでしょうか?
では、少し先の未来からタイムマシーンで時間軸を今に戻しましょう。
法律の仕組みを正しく知れば将来のことを「想定」することができます。仕組みについて話し合う機会を持ち、備えることができます。誤解を恐れずに言えば、望まない形での利用をせず、望んだ形で利用することができます。
ここでみなさんに問いかけたいと思います。
もし、あなたが将来誰かの助けを必要とする状況になったら『あなたは誰を頼りたいですか?』
『誰かに頼るなら、頼る相手は自分で決めたいと思いませんか?』
あなたは、あなたの人生のデザイナーです。
人生のライフプランは、年齢や環境などの変化に応じて作り直すことが必要です。
仮に認知症という状態になったとしても、出来る限りこれまでと同じように暮らしたい。
そういった願いを叶えるためにも、法律の仕組みを正しく知りましょう。
そして、あなたが主役のライフデザインをあなた自身で実行していきましょう。

【福村雄一 プロフィール】

福村雄一 プロフィール

司法書士。1982年生まれ。神戸大学法学部卒。遺言、遺贈寄付、後見、民事信託、身元保証、死後事務委任、相続といった財産の管理、承継に関する業務を専門とする。「出会うことで人が動き出し、共に未来を変える」というクレドを掲げる東大阪プロジェクトの代表を務める。医療職・介護職との協働ネットワークを通じて、ビジネスによる地域課題解決に取り組んでいる。

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