個人と家族、財布は別物。
「2025年に700万人」
この数字はこの『ライフデザインの道しるべ ~法律を知って一歩踏み出す~』で何度も取り上げてきたので、もう覚えられた方も多いと思います。認知症を患う高齢者が65歳以上の方の5人に1人にのぼるというお話に出てきた数字でしたね。
認知症は今や誰もが関わる可能性のある身近なものです。そこまで至らなくても、親御さんが財産を管理することに不安を感じるご家族は大勢おられ、そういったご家族では、子が親名義の通帳やキャッシュカード、銀行印を預かるケースがよく見受けられます。子が実家の親の財産(お財布)を管理し、親の生活をサポートするんですね。家族の財布を身内が管理することは、感覚的には何も問題ないように思われそうですが、法律の世界では個人の財布は個人のものであって、家族のものではないのです。
年々厳しくなる本人確認。
皆さんの中には、このことを痛感された方がいらっしゃるかもしれません。たとえば、金融機関で行われる本人確認。親御さんの代わりに金融機関にお金を引き出しに行った時に、「ご家族であっても引き出しは出来ません。親御様にお電話して確認する必要があります」といった対応を窓口で受けたことはありませんか?
金融機関の本人確認は年々厳しくなってきており、たとえ家族であっても、それだけをもって払込などの手続をすることは難しくなっています。親御さんが寝たきり状態のため、家族が代わりに金融機関に出向いたところ、親御さんが銀行に登録している電話番号が固定電話になっていたため、銀行担当者は「こちらから固定電話にお電話して本人確認をいたします。携帯電話をお持ちであっても登録が固定電話ですので、固定電話にお出になられた方がご本人様かどうか確認させていただきます」といった対応を受けている実例もありました。「そんなことあるの?!」が実際に起きる状況になっているのが今の世の中ですが、そうした場合に利用できる仕組みに「財産管理委任契約」というものがあります。
代理人を決めて管理を委任。
財産管理委任契約は、日常生活に必要な金銭等の財産管理が困難な場合に、自分の財産の管理やその他生活上の事務の全部、または一部について、具体的に管理内容を決めて代理人に委任する仕組みです。具体的な管理内容の例としては、預貯金の管理や公共料金・医療費等の支払いなどが挙げられます。
財産管理委任契約は、当事者間の合意のみで契約の効力が生じ、管理内容はもちろん管理をスタートする時期も自由に定めることができるので、家族の実情に合わせた親子向きとの仕組みといえます。
ただ、金融機関等の第三者に合意の内容を明らかにするためには、契約書を作成することがとても重要です。ご自身で作成することも可能ですが、金融機関等の第三者にその契約書を提出しても委任した内容を認めてもらえないこともあるので、公証役場で財産管理委任契約を結ぶことをお勧めします。(法律専門職に委ねていただく場合は、財産管理委任契約と同時に、定期的な訪問や電話等を行う見守り契約を結び、任意後見契約とセットで仕組み作りをさせていただくケースが多いようです。)
まずは日常の雑談の中で。
たとえ親子といえども、場合によっては予想外の残念な結果を招きかねません。そうならないように、親子だからこそ日常の雑談の中でお財布のこと、財産のこと、これから先の生活場所のことといったテーマについて話していきたいものですね。
気持ちも仕組みも鮮度が大切です。一度で完成形となることはありません。自分が望む形やそれに近い形でライフプランをデザインし続けていくことが大切です。その仕組み作りをお手伝いできる職業の1つが我々司法書士です。未来を想像し、未来を創造する。あなたは、あなたの人生のデザイナーです。あなたが主役のライフデザインをあなた自身で実行していきましょう。
【福村雄一 プロフィール】
司法書士。1982年生まれ。神戸大学法学部卒。遺言、遺贈寄付、後見、民事信託、身元保証、死後事務委任、相続といった財産の管理、承継に関する業務を専門とする。「出会うことで人が動き出し、共に未来を変える」というクレドを掲げる東大阪プロジェクトの代表を務める。医療職・介護職との協働ネットワークを通じて、ビジネスによる地域課題解決に取り組んでいる。