余命告知は、誰のため?

患者さんのご家族と面談をしたときに、よく質問されることがあります。
「あとどれくらい生きられるのでしょうか?」
大切な人に一日でも長く生きていてほしいと願われている方や、介護がいつ終わるのか知りたいという方など、この問いかけには様々な思いが込められています。
そのたびに、高齢者医療における余命宣告は、いったい誰のために必要なのか、疑問に感じるのです。余命の意味を正しく理解している人も意外と少ないのではないでしょうか。
今回は、高齢者医療における余命宣告について考えてみたいと思います。

「余命」の本当の意味。

例えば、「余命半年」と言われたとき、あなたはどのように思いますか? このコラムをお読みの方の中でも「あと半年しか生きられない」と思われた方が多いのではないでしょうか。実は、これは正しくない解釈です。過去の症例を元に、同じ病気で同じような症状だった全年代の方のうち、50%の人が亡くなった時期を意味しているのです。ですから、必ず半年後に死ぬわけではなく、同様にあと半年生きられるとも限らないのです。

高齢者の「余命」について考える。

高齢者への余命宣告について、皆さんにもイメージしやすい「がん」を例に説明しましょう。がんの進行は若い人に比べて高齢者は緩やかな傾向があります。一方で、全身状態も衰えているので、合併症によって亡くなることも少なくないのが現実です。そのため、余命3年のはずが合併症により3ヶ月ともたなかったケースや、その逆もあります。早すぎて何もしてあげられなかったと後悔をする方や、あと少しだからと自宅介護を選択したものの、思いのほか長期介護が必要となるなど、「余命」という言葉に振り回されることも少なくありません。こうした皆さんを見ていると、果たしてどちらが良かったのかと悩まされるものです。

終末期医療における家族への余命宣告。

そうは言っても、家族は余命を知っておきたいものです。大切な家族がいつまで生きることができるのか。少しでも長く生きるためにはどうすれば良いのか。生きている間に家族は何をしてあげられるのか。しかし、このようにポジティブな思いの方ばかりではありません。介護をする家族の中には、この毎日がいつまで続くのかを知りたい方も多くいらっしゃいます。私はこれを悪いこととは思いません。余命を知ることで、介護の終わりの目処が立ち、気持ちが落ち着くことがあるからです。こうしたケースでは、余命を知ることも選択肢の一つとして良いのかもしれません。

終末期医療では、余命よりも目標を。

余命宣告は、若い患者さんの場合、本人が病気と向き合い、治療方針を自分でも選択することで生きるための力を引き出すことがあります。しかし、高齢の患者さんの場合は余命を素直に受け止めてしまいます。若い人と違い、「生」と向き合うのでなく、「死」と向き合うことになるのです。そのため当院では、本人への余命宣告はしないようにしています。患者さんには、「あとどれくらい」ではなく「どう生きたいか」と問いかけ、目標を持っていただくのです。そうすることで、予想を遥かに超えて長生きされることがあります。このように、高齢の患者さんと家族の方が最期まで有意義な時間を過ごすために必要なのは、余命ではなく生きている間の目標であるといえるのです。

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