認知症が進んだ父が入院先でベッドに抑制されています。仕方ないのでしょうか?

ご質問者様
認知症を患っている父が、先日救急車で運ばれました。嚥下能力が落ちたため、誤嚥を防ぐために経鼻経管栄養となったのですが、父はチューブが気持ち悪いらしく、頻繁に抜いてしまうのです。そのため、手にはミトンがつけられ、ベッドに抑制されてしまいました。病院側が言うには、抑制しておかないと栄養を摂取できず、身体は衰退してしまうそうです。しかし、いくら認知症でも父のこのような姿を見るのはとても辛いです。本当にこうするしかないのでしょうか?

回答

医師は、認知症患者への経鼻経管栄養法がリスクと隣り合わせであることは十分理解しています。しかし、急性期病院では嚥下能力が落ちている患者さんの誤嚥の危険性を考慮したときに、この方法を選択せざるを得ないことがあるのです。そのためには、ベッドへの抑制が必要となってしまうのです。恐らく、入院期間は限られた日数となりますが、その後の生活で、抑制が必要かどうかといいますと、必ずしもそうではないと思います。お父様にとってこれからの人生で幸せを感じていただく方法は、いくらでもあります。そのためには、まずはお父様が抑制されなければならない理由を考えてみることが大切です。

チューブ(※)を抜いてしまうのは、ご質問者様がおっしゃるとおり、気持ちが悪いからでしょう。認知症の方は、記憶を司る「海馬」の機能が衰えています。そのため、なぜチューブを入れるのかについて、説明されてもすぐに忘れてしまい、不快に感じるチューブを抜いてしまうのです。チューブを抜くことは水分や栄養が摂取できなり、治療の妨げになるだけでなく、生命に危険を及ぼす場合があるため、病院ではミトンをつけたりするのです。
器用に外しても、またすぐにつけられてしまう。ミトンをつける側も患者さんの命を守ることが最優先ですから、その行為が強引にうつることもあるでしょう。認知症の方は、ミトンをつける人に恐怖を覚え、その感情が暴れるという行為を引き起こしているのです。

※チューブとは、「NGチューブ(経鼻胃チューブ)」のことで、水分や栄養剤を補給するために、鼻から胃に挿入するチューブのことです。

ではここで、過去の事例に基づき可能性についてお話しましょう。認知症で経鼻経管栄養法でしか栄養摂取ができないと判断された患者さんが、その後普通食が食べられるまでに回復したケースがあります。転院されてきたとき食べることはできませんでしたが、笑うことや会話ができる方でした。私たちは、その状況をみて飲み込む力が残っているのではと判断し、経口摂取の可能性を見極めることにしました。口腔ケアや口腔マッサージを入念に行いながら、時にはお好みの甘味を口に含ませ、味わって頂きます。
その結果、最終的には再び口から食べられるようになったのです。そして、不快要素であったチューブを取り除くことができ、ミトンや抑制の必要もなくなりました。

「認知症だからもう何もできない。感じない。」と決め付けるのではなく、その方に幸せを感じて頂ける術を試行錯誤しながらケアに結び付けることが大切です。可能性を探り続けることが、患者さんにとっても生きる希望につながっていくのです。ご質問者様も諦めることなく、お父様の可能性を探ってみてはいかがでしょうか。

まとめ

抑制を解く前に、抑制の理由を考えてみる。
認知症の場合、記憶はなくても感情は残っている。
「できない」と決め付けずに「できる」ことに目を向けてみる。
可能性を探り続けることが、患者さんにとっての安心材料となることも。

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