住み慣れた自宅で母を最期まで介護し、看取りたい。でも仕事もあるので悩んでいます。

ご質問者様
私には高校生の一人息子がおり、実の母と同居しています。母は高齢なうえ最近体調がすぐれず、医者からは入院を勧められています。夫を早くに亡くした私はフルタイムで働いているため、そのほうが安心なのですが、母が最期まで住みなれた場所で過ごしたいと、自宅から離れたがりません。できれば母の気持ちを尊重したいのですが、生活のためには仕事を辞められず、今度は私が体力的に辛くなってきました。いったいどうすれば良いのでしょうか?

回答

人生の最期まで、住み慣れた我が家で過ごしたいと思われるお気持ち、よく分かります。しかしご家族の方の協力が必要となると、なかなか思い通りにいかないことも多いはずです。こうした方に私はいつもお話しします。人生の最期をどこで過ごすかのではなく、どのように過ごしたいかを考えてみてくださいと。

健康寿命という言葉をご存知でしょうか? これは健康に問題なく元気に日常生活が送れる年齢のことを差します。日本人の平均寿命は男性が81歳、女性は87歳を越えています(厚生労働省「平成29年簡易生命表」より)が、厚生労働省の発表によると、健康寿命は男性が72.14歳、女性が74.79歳(2018年厚生労働省発表)。これは、多くの人がなんらかの不調を抱えながら人生最期の10年を過ごしているということに なります。

お母様の人生において大切なのは、この10年にあたる残りの人生をどのように生きるのかということではないでしょうか。もしご自宅で過ごすのであれば、今後のどのようなことが起こり得るのか、その時の対処を考えておいたほうがいいでしょう。

例えば、ご自宅にいるときに容態が急変したとします。その時、救急車を呼び、搬送先の病院で延命措置を取られる場合があります。もしくは、介護つきの施設に入所したとしても、医師が常駐していないのであればそれも同じです。病状が急変したときに救急病院へ搬送されることになるでしょう。
このように、ご自宅での最期を望んでいたのに、結局は病院で亡くなるケースが少なくないのも事実です。

では、病院で迎える最期を考えてみたとき、それは本当に不幸なことといえるのでしょうか? 私の経験からすると、決してそのようなことはありません。
病院だからこそ、穏やかな最期を迎えられた方を多く見てきました。ご質問者様とは少し状況が異なりますが、一組のご夫婦のお話を紹介させていただきます。

入院されていた奥様は、お母様と同じようにご自宅での生活を希望されていましたが、不安定なご病状やご主人の仕事のこともあり、入院生活を余儀なくされたのです。ですが、病院での毎日は、決して悲観的なものではありませんでした。日常生活の介助を専門スタッフが行うことで、ご主人は奥様との時間をとても有意義なものにできたのです。お見舞いに来られる際には奥様の好物をお持ちになり、病室では共通の趣味であった音楽をヘッドホンで聴かれる姿もしばしばお見かけしました。ご自宅で過ごされていたら、ご主人も介護に疲れ、お二人の毎日は穏やかといえるものではなかったかもしれません。

また、逆の考え方として、在宅介護をあきらめるのではなく、ご家族さまの負担を軽減しながら今の生活を継続する方法を紹介しましょう。
まず、介護保険制度ではショートステイという制度があります。介護老人保健施設(老健)などの介護保険施設で30日を上限に短期入所ができます。介護度によって条件が異なることもあるので担当のケアマネージャーに相談してみましょう。この間に介護者様は疲れを癒し、ご自身の時間を楽しむことができます。心身ともにお疲れの状態で介護を継続するよりは、時には介護者自身がリフレッシュすることが大切です。
当法人である「関屋病院」と「老寿サナトリウム」では短期入院を実施しています。「病院での短期入院」…聞き慣れない方も多いと思いますが、「介護施設でのショートステイ」に対して「病院でのショートステイ」とイメージしていただいたらいいかもしれません。医療保険の取り扱いとなるため、介護保険の枠を超えた利用が可能です。病院なので医療処置の必要な方も対応が可能で、介護施設でのショートステイが困難な方にも選択肢が広がります。
また、定期的に利用することで、とっさの時に病院という「頼れる居場所」を確保できるのです。
お母様も短期間という期間限定であれば、旅行気分でショートステイや短期入院に応じてくれるのではないでしょうか。
このような選択肢をうまく利用することで、結果的に「自宅で過ごしたい」というお母様の希望を叶えることにつながっていくのだと思います。

まずは、ソーシャルワーカーやかかりつけ医に相談してみましょう。きっとご質問者様とご家族にとって、最善の方法が見つかることと思います。
またこのサイトで、人生の最期をどのように生きるかのヒントをご紹介しています。よろしければご参考になさって下さい。

まとめ

人生の最期をどこで過ごすかより、どのように過ごしたいかをご本人と共に考えてみる。
特に健康寿命と平均寿命の差約10年をどう生きるか。どうサポートするか。
病院だからこその穏やかな最期が迎えられることも。
在宅介護を継続するなら、短期入院をうまく利用して。
一人で抱え込まずに、専門家に相談を。

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