その時そこに、いないのだから。

  • vol.8

想いをバトンタッチしていないと……。

縁起でもない話ですが、今日突然あなたが亡くなってしまったとします。
あなたのご家族や大切な人は、あなたのことをどれだけ知っていますか?
あなたの想いをどこまで知っていますか?
相続の現場では「急に亡くなってしまってどこに何があるのかわからない」と頭を抱えるご家族が多くいらっしゃいます。
通帳や印鑑は? 家の権利証は? 生命保険は?
いわゆる財産に関する情報が全くわからないのです。
昨今はネットバンキングをはじめとして、生活のさまざまなものがID・パスワードに囲まれています。場合によっては、パスワード1つがわからないがためにしばらく生活に支障が出るということも考えられます。
想いに関しても同様です。例えば財産のバトンタッチに関して、実際はどうしたかったのか。残された側は故人の想いを推し量ることしかできません。なぜなら、相続の手続を進める時、故人はその場にいないのですから。
「確かに!準備をしていかなきゃ」
そう思われた方も多いのではないでしょうか。

おひとりさまなら、なおのこと。

最近、定着してきたおひとりさまという言葉があります。家族がその方だけという方もいらっしゃいますが、家族はいるけれど何らかの理由で疎遠になっているという意味でのおひとりさまも増えています。
そのような方が、もし、今、亡くなってしまったらどうなるでしょうか?
これまで積み上げてきた財産や、これまでの人生を通してでき上がってきた想いをどう伝えればよいでしょうか?
身近に家族や親族がいない方は、より一層の準備が必要と言えるでしょう。
どのようなご葬儀や供養を望むのか、誰に葬儀の手配をお願いするか、またその費用をどのように準備するかなどを決めておくことが重要です。
亡くなった後の家財道具の処分、財産の引き継ぎ方も考えておく必要があります。
そんな時に役立つのが「死後事務委任契約」という仕組みです。

まわりに迷惑をかけないために。

死後事務委任契約とは、おひとりさまであったり、親族がいても遠方で頼む人がいなかったり、関係が良くないといった理由で死後の手続を頼むことができない場合に、亡くなった後の各種手続きや葬儀、供養などに関する事務手続きを信頼できる人に委任する契約のことです。この契約を締結しておくことで、火葬、納骨、供養に関することや、年金や健康保険といった各種行政手続、水道光熱といったライフラインの解約、生命保険の手続など、生活に関する数多くの手続を任せることができます。
ふと周りを見渡してみると、日頃の生活が数々の契約(名義)に囲まれていることに気づくでしょう。その多くが皆さんご自身の名義になっているはずです。
実務の現場では、「まわりに迷惑をかけたくない」という声をよく聞きますが、何の仕組みも作らないでいるとご本人の希望に最も反する結果を招くことになります。
残された側はわからないことに対して限られた材料の中で推測するしかありません。
少しでもカタチに残してさえいれば、人生を最期までデザインしてさえいれば、残された側も故人にぐっと寄り添えることになります。
仕組みを残した方が総じて良い人生だったといえるのではないでしょうか?

最期までどう生き切るかをデザインしましょう。

世の中にはエンディングノートというものがありますが、私は、それを単に終わり方を決めるツールではなく、むしろ、終わる時までの生き方を「見える化」するツールだと思っています。
これまでどう生きてきたかを振り返り、これから先、最期までどう生き切るのか。想いは変わるものですし、年齢や家族構成、生活環境によっても異なるものです。仕組みは一度決めたら終わり、ではありません。絶えずアップデートすることが可能です。仕組みを作る過程で多くのものを「見える化」することができ、財産の棚卸しをすることで自分自身の棚卸しができます。
段階ごとに想いや財産を「見える化」し、その時にどのような仕組みを作るのがよいかをご自身でコーディネートし続けていくことが大切です。
どんな段階においても、あなたが自分自身の人生の主人公であることに変わりはありません。
司法書士は法的な仕組み作りでご一緒することができます。仕組み作りの一歩を踏み出す際に脇役をひとり加えてみてはどうでしょうか?
さあ、これから先もご自身で選択しながら、ご自身の人生をデザインしていきましょう。
コラムをお読みいただきありがとうございました。
またお会いするできることを楽しみにしています。

【福村雄一 プロフィール】

福村雄一 プロフィール

司法書士。1982年生まれ。神戸大学法学部卒。遺言、遺贈寄付、後見、民事信託、身元保証、死後事務委任、相続といった財産の管理、承継に関する業務を専門とする。「出会うことで人が動き出し、共に未来を変える」というクレドを掲げる東大阪プロジェクトの代表を務める。医療職・介護職との協働ネットワークを通じて、ビジネスによる地域課題解決に取り組んでいる。

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