夢があるだけで、リハビリは「楽しく」なる。

正直言って、リハビリは楽しいものではありません。痛みを伴い、とても疲れるものです。夢や目標があり、頑張れば、またできるようになることを理解していても、身体がついてこないこともあります。特に高齢者医療の現場では、身体の衰えや認知症を患っている患者さんに対して「リハビリをしましょう」と言っても、素直に取り組んでくれることのほうが少ないかもしれません。そこで、私たちはできるだけ楽しみながら取り組んでいただけるように工夫をしています。では、どのような方法なのか。病院で繰り広げられている創意工夫をご紹介いたします。

高齢者にとってのリハビリとは

食事やトイレでの排泄などといった日常生活を、できるだけ自分の力で行えるようにするためのリハビリとなります。関節が硬くならないように、弱った筋力を回復させることはもちろん、これまで無意識で行ってきた動作を身体に負担のかからないように修正したりします。高齢者医療におけるリハビリでは、難しいことはせず、日常的な「立ちあがる」「歩く」動作を通じて筋力の向上を目指します。しかし、何より苦労するのがモチベーションの維持。人生長くはないのだからと、気持ちが後ろ向きになっていると、なかなかリハビリを受けたいと思ってもらえないのです。

リハビリを「させられている」感覚を取り除く

気持ちを前向きにするために必要なのが、目的や夢です。やりたいことが見つかると、自然とリハビリを受けたいと思うようになります。しかし、そのリハビリが辛いものでは、再び気持ちは後ろ向きになるでしょう。そのためリハビリをさせられている感覚を取り除くために、作業療法の分野では、編み物や将棋などの趣味を利用したアプローチを行います。すると、楽しみながら、知らず知らずのうちにリハビリを行っていることになるのです。また、リハビリスタッフが1対1で患者さんとしっかり向き合うことが大切です。ちゃんと自分を見てくれているという安心感や、またこの人と話したいという気持ちも、リハビリの後押しになるでしょう。
また、多くの患者さんの入院生活に携わっていて思うことがあります。
入院生活の中で、ひとりの職員が1対1でその患者さんと一定時間向き合えることはそう多くはありません。リハビリはその数少ない機会であると思うのです。近い距離で、目を合わせ、声をかけ、ふれあいながらの時間となります。そうすることで、自然とその時間が患者さんにとっての「楽しく穏やかな時間」となっていくのです。機能の向上を目的としたマニュアルをこなしていくだけではなく、時には歩行訓練中に少し寄り道をしてベンチで談笑してもいいかもしれません。「足をもっとあげて」と言うよりは屋外に出て景色を見ながら昔のハイキングに想像を巡らし歩く方が元気が出るかもしれません。訓練の中に普段の日常を組み込んでみると、リハビリが特別なものではなく、とても身近なものに感じられるのではないでしょうか。
 リハビリは効果の有無や程度のみを評価するのではなく、患者さんの心の反応を重視することが大切だと思うのです。「ちょっとリハビリの先生に会ってくるわ」とイキイキと出かける患者さんがいらっしゃいます。その方は訓練よりも、訓練士に会うこと・話すことが楽しみなのです。本来のリハビリとは離れてしまうかもしれませんが、人としてのつながりを求めているのだと思います。「目標に到達したから終了。効果がないから中止。」と割り切っていくのではなく、こういった関係性を継続することが最も大切な「心のエイヨウ」になると実感させられるのです。

趣味をリハビリのきっかけに

私たちの病院にも、なかなかリハビリに参加してくれなかった患者さんがいらっしゃいました。認知症で変形性膝関節症を患っている方でした。リハビリを担当する作業療法士が何度も訓練に誘ったのですが、頑なに拒否するのです。そこで、思いついたのが、この患者さんの昔からの趣味である囲碁を活用することでした。囲碁をするためにリハビリ室まで誘ってみました。最初は渋った患者さんでしたが、作業療法士の熱心さに負け渋々ですが足を運んでくれるようになりました。そして、いつしか歩行訓練にも喜んで参加してくれるようになったのです。まさに趣味がリハビリのきっかけとなった一例です。

夢があると「楽しい」ものになるリハビリ

このほかにも、「入院中に改装した自宅を見せたい」「もう一度桜並木を家族と一緒に眺めたい」など、家族の願いが患者さんにとっての夢となることがあります。寝たきりで車での移動が困難な状態であっても、私たちはその思いを実現できるようにお手伝いします。患者さんも、こうした強い気持ちがあるからこそ、リハビリを頑張ることができるのです。夢を実現させるために、「努力」を「楽しみ」に変えていくことが必要です。だからこそ、私たちの病院では患者さんにとっての夢をみつけるお手伝いを欠かしません。人生いつでも、そこに夢があるって素敵なことではないでしょうか。

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